目次
はじめに
新規事業を立ち上げる際、リスクは避けて通れない課題です。しかし、リスク管理とリスク評価を適切に行うことで、事業の成功率を高めることができます。本コラムでは、新規事業推進室に所属する30代〜60代の方を対象に、リスク管理と評価方法を解説します。リスク特定の手法から、リスク評価の基準、リスク対策の立案、リスクコミュニケーションの重要性、そしてリスク管理の継続的改善まで、幅広くカバーしています。
尚、弊社では新規事業のコンサルティング支援サービスを行っております。新規事業に関してお困りの事があれば、お気軽にご連絡ください。
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1: リスク特定の手法
事業のリスクを適切に管理するためには、まずリスクを特定することが重要です。ここでは、リスク特定の手法としてSWOT分析、PEST分析、シナリオ分析を紹介します。
1-1: SWOT分析
SWOT分析とは、強み(S)、弱み(W)、機会(O)、脅威(T)を整理・分析することで、新規事業のリスク要因を明確化する手法です。SWOT分析を通じて、自社の強みを活かし、弱みを克服する方策を立てることが可能です。また、市場の機会を掴み、脅威に対処する準備をすることができます。SWOT分析の実施は、新規事業の成功に欠かせない重要なステップとなります。いかによいアイデアやビジネスモデルであっても、リスクマネジメントにおいて不十分であれば、不成功に終わる可能性が高くなります。、まずはSWOT分析を通じて、自社に合ったプランを提案しましょう。
SWOT分析の手順
新規事業を開始する前にSWOT分析を行い、リスクを最小限に抑えることが重要です。その手順は以下の通りです。
- 強み(S)をリストアップ: 新規事業の強みとなる要素を洗い出します。例えば、特定の技術や知識、ブランド力、資金、ネットワークなどが挙げられます。
- 弱み(W)をリストアップ: 新規事業の弱みとなる要素を洗い出します。例えば、市場調査や商品開発の不足、財務面の弱さ、人材不足などが挙げられます。
- 機会(O)をリストアップ: 新規事業の可能性となる要素を洗い出します。例えば、市場動向や競合の動向、法改正、新技術の登場などが挙げられます。
- 脅威(T)をリストアップ: 新規事業に影響を与える可能性のある要素を洗い出します。例えば、市場競争の激化、景気の低迷、法令改正、外部リスク(天災・人災)などが挙げられます。
- 各要素間の関係性を分析し、戦略を策定: 上記4つの要素を分析し、互いの関係性を把握し、新規事業を成功に導くための最適な戦略を策定します。
SWOT分析は、新規事業の立ち上げだけでなく、既存事業の改善や新商品開発の検討など、様々な場面で活用されます。分析結果は、事業計画書の重要な要素の1つとして、投資家や金融機関に説明する際に必ず必要となります。
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1-2: PEST分析
PEST分析とは、新規事業を展開する上で重要な外部環境を分析する手法です。Pは政治・法律、Eは経済、Sは社会・文化、Tは技術を表し、これら4つの要素を分析することで、新規事業におけるリスク要因を特定し、市場環境への適応力を高めることができます。例えば、政治・法律要因としては、政府規制や法律の変更が新規事業に与える影響を考慮する必要があります。経済要因としては、景気変動やインフレ率、為替レートなどが考えられます。社会・文化要因としては、消費者の価値観やライフスタイルの変化が挙げられます。そして技術要因としては、ICTの発展やデジタルトランスフォーメーションが挙げられます。PEST分析を通じて、外部環境の変化に敏感に対応し、新規事業を成功に導くための戦略を立てることが重要です。
PEST分析の手順
- 政治・法律要因(P)
憲法や法律、政治的な状況、政策などが含まれる。※具体例としては、政府の規制や関税の変更、国政における変動、規制の緩和、法改正などが挙げられる。これらのリスクの影響を把握することが重要であり、それぞれに対応策を持つようにする。 - 経済要因(E)
外部的要因であり、景気や通貨、借入金利、物価、自然災害の影響をうける。特に、新規事業においては、需要・供給の変動、為替レートの変動、物価・スパイクなどへの対処策が必要である。 - 社会・文化要因(S)
人口構成、ライフスタイル、価値観、教育、文化的側面などを含む。特に新規事業立ち上げでは、目的とする市場や商品・サービスを利用する人たちの嗜好やニーズなどを調査し、周囲環境を踏まえた対応策を講じる必要がある。 - 技術要因(T)
ITや製造技術などが含まれる。急速な技術革新による新たな市場・プロダクトの出現などがあるため、テクノロジーの最新動向、標準化や特許技術、競合相手の情報などを調査し、その対応策を策定する。 - 各要素の影響度や関連性を分析し、戦略を策定
それぞれの要因に関して、影響度や関連性を適切に評価し、トータルに判断することが重要である。PEST分析を行うことにより、リスクを拾い上げ、それに対応した事業戦略を策定することができる。
1-3: シナリオ分析
シナリオ分析は、新規事業を成功させるために不可欠な手法の1つです。この手法は、複数の未来シナリオを設定し、それぞれのシナリオにおけるリスク要因やビジネスチャンスを評価するものです。シナリオ分析を行うことで、将来起こり得るリスク要因を予測し、そのリスクに対応する戦略を策定することが可能になります。また、ビジネスチャンスを見逃すことなく、迅速かつ正確な意思決定を行うことができます。シナリオ分析は、不確実性の高い状況下でも柔軟な戦略を立てることができ、新規事業の成功につながる重要な手法です。新規事業を開始する場合は、シナリオ分析を積極的に活用することが求められます。
シナリオ分析の手順
- 新規事業におけるリスクを把握するために、重要な課題や疑問点を特定します。
- 複数の未来シナリオを設定し、それぞれのシナリオにおける新規事業の展開や市場環境などを想定します。
- 各シナリオにおけるリスク要因とビジネスチャンスを評価し、それぞれのシナリオにおけるリスクとチャンスを明確にします。
- シナリオ間で比較・分析を行い、最も有望なシナリオを選択し、戦略を策定します。
シナリオ分析は、新規事業においてリスクマネジメントを行うための有用な手法です。新規事業を展開する際には、様々なリスクが存在し、それらを未然に防ぐためにシナリオ分析は欠かせません。シナリオ分析を通じて、リスク要因やチャンスに対する理解を深め、事前に対策を立てることで、新規事業の成功に近づけることができます。
2: リスク評価の基準
リスク特定後、リスク評価を行うことで、リスク対策の優先順位を決定します。リスク評価は、リスクの定量評価と定性評価に分けられます。
2-1: リスクの定量評価
リスクの定量評価は、リスク要因に対して数値を割り当てて評価する方法です。具体的には、リスクの発生確率と影響度を数値化し、リスクの大きさを算出します。この方法でリスクを定量評価することで、リスクの本質を把握し、適切なリスクマネジメントを行うことができます。このリスクの定量評価の手順は以下の通りです。
- リスク要因の発生確率を推定: リスク要因の発生確率を専門家によるアンケート調査やヒアリングの形で推定します。蓄積された情報を考慮して最も適切な発生確率を算出します。
- リスク要因の影響度を推定: リスク要因が引き起こす影響を数値化します。例えば、財務的損失の場合は金額、リスクを引き起こす社員の離職の場合は、代替人員の採用にかかる費用等です。こうした影響度を、専門家の意見や統計データをもとに算出します。
- リスクの大きさを算出(発生確率 × 影響度): リスク要因の発生確率と影響度をかけてリスクの大きさを算出します。この値は、リスクの優先度を決めるときに使用します。
- リスクの優先順位を決定: リスクの優先順位を、算出されたリスクの大きさを比較して決定します。この方法で、リスクを優先順位付けし、対策の優先順位を決定します。
リスクの定量評価は、新規事業の立ち上げ前に行うことが重要です。定量評価を行うことで、リスクの本質を把握することができ、より効果的なリスクマネジメント策を打ち出すことができます。
2-2: リスクの定性評価
リスクの定性評価は、数値化が難しいリスク要因を評価する方法であり、新規事業において重要な評価方法の一つです。事業計画書において、リスクの有無やその内容の詳細について記述することが求められます。
リスク要因の発生確率と影響度を評価するため、専門家や関係者の意見を参考に定性的に評価することが一般的です。具体的には、以下のようなステップがあります。
- リスク要因の発生確率を評価(例: 低、中、高)
- リスク要因の影響度を評価(例: 低、中、高)
- リスク要因をマトリクス上にプロット
- リスクの優先順位を決定
これらのステップによって、リスクの優先順位を決定することができます。リスクの内容に合わせて、専門家や関係者の意見を十分に取り入れ、リスクの正確な評価を行うことが求められます。
3: リスク対策の立案
リスク評価をもとに、リスク対策を立案します。リスク対策には、予防策、軽減策、転嫁策、受容策の4つがあります。
3-1: リスク予防策
リスク予防策は、新規事業の成否に重要な影響を与えます。事前にリスクを把握し、予防することが必要です。具体的には、法令遵守の徹底、従業員の教育や研修などの人材育成、事業計画の慎重な見直しが必要です。特に、法令違反に対する罰則やリスクを常に把握することが重要です。また、リスク予防のためには、市場調査や競合分析の実施、資金調達の計画なども必要です。リスク予防策を十分に講じた上で、新規事業をスタートすることが望ましいでしょう。
3-2: リスク軽減策の具体的内容
リスク軽減策とは、新規事業におけるリスクが発生した場合の影響を軽減するための対策です。具体的な内容としては、以下のようなものがあります。
・バックアップシステムの整備:データのバックアップが定期的かつ正確に行われるようにすることで、システムの障害やデータの紛失によるリスクを軽減します。
・事業継続計画の策定:万が一の事態に備えて、社員の安全確保や業務の継続、必要な情報提供などの手順を明確化し、迅速かつ的確な対応を可能にすることで、事業の継続性を確保します。
・リスク分散戦略:リスクを分散させるために、複数の市場や地域に展開することで、リスクの影響を最小限にし、リスクに強いビジネスモデルを構築します。
以上のような具体的なリスク軽減策を実施することにより、新規事業におけるリスクを最小限に抑え、安定したビジネスモデルの構築につなげることができます。
3-3: 転嫁策
転嫁策とは、自社でリスクを負担する代わりに、第三者に負担してもらう対策のことです。具体的には、保険への加入や契約における免責条項の設定が挙げられます。この方法は、リスクを自社で負うことができない場合や、リスクを回避するための他の方法が見つからない場合に有効です。ただし、転嫁先でリスクが生じた場合に適切に対処できるように事前に検討と手順を十分に準備する必要があります。また、転嫁先がリスクを受け入れてくれるかどうかについても確認が必要です。そのため、転嫁策については、事前にリスクマネジメントの専門家や法務担当者と協力して慎重に検討しましょう。
3-4: 受容策
受容策は、リスクを受け入れることを選択する対策です。リスクはつきものであり、必ずしも完全に回避できるものではありません。しかし、リスクの発生確率が低く、影響が限定的である場合には、受容策をとることが適切です。そのためには、事前にリスクマネジメントを行って、受容策を選択するための情報収集やリスクの特定・分析を行うことが大切です。また、受容策をとる場合でも、そのリスクを十分に認識し、把握した上で、必要な対策を講じることが求められます。受容策を選択することで、新規事業の推進を妨げることなく、リスクを抑えつつ目標達成に向けて挑戦できます。
4: リスクコミュニケーションの重要性
リスク対策が立案された後、リスクコミュニケーションが重要となります。リスクコミュニケーションは、社内リスクコミュニケーションと社外リスクコミュニケーションに分けられます。
4-1: 社内リスクコミュニケーション
社内リスクコミュニケーションは、新規事業において重要な役割を担います。組織内でリスク情報を共有することで、リスク対策を適切に実行するための情報交換が行われます。社内コミュニケーションが不適切な場合、リスク情報の共有が遅れたり、リスク対策が不十分になる恐れがあります。
このリスクを軽減するために、定期的なリスクレポートやリスク管理委員会の開催などが実施されます。社内におけるリスクコミュニケーションの促進は、新規事業の成功に欠かせないポイントです。そのため、社内コミュニケーションの円滑な実施が求められます。
また、情報の共有方法や内容に関するガイドラインの策定も重要です。新規事業に関するリスク情報だけでなく、社内の情報共有の在り方についても明確に定め、社員の負担を軽減するように心がける必要があります。リスクコミュニケーションの改善に積極的に取り組むことで、社内情報共有の質の向上や、リスク対策の迅速な実行を実現することができます。
4-2: 社外リスクコミュニケーション
新規事業における社外リスクコミュニケーションは、取引先や顧客、投資家などのステークホルダーに対してリスク情報を開示し、信頼関係を築くための情報交換です。社外リスクコミュニケーションにおいては、適切な情報開示やコンプライアンスに十分注意が必要です。具体的には、以下の点が求められます。
1. 適切な情報開示
新規事業においては、ステークホルダーに対してリスク情報を適切に開示することが求められます。具体的には、新規事業に関するリスク要因や事業計画、財務情報などが含まれます。また、ステークホルダーからの質問に対しても正確かつ適切に回答することが必要です。
2. コンプライアンス
新規事業の展開には、多くの場合、法的規制が関係します。そのため、コンプライアンスに十分配慮することが求められます。具体的には、法令や条例を遵守すること、情報開示に関する規定に従うことなどが挙げられます。
3. 透明性の向上
新規事業の取り組みに関する情報が透明であることは、ステークホルダーとの信頼関係を築く上で非常に重要です。透明性の向上には、リスク情報や財務情報を公開することや、社外からの情報提供を受け入れることなどが含まれます。
これらのポイントに留意し、適切な社外リスクコミュニケーションを行うことが、ステークホルダーとの信頼関係を築くことにつながります。リスク情報の適切な開示は、企業にとって重要な義務であることを忘れずに、情報開示についてのルール作りや周知を徹底することが求められます。
5: リスク管理の継続的改善
リスク管理は、継続的な改善が求められるプロセスです。PDCAサイクルを活用し、リスクレビューとモニタリングを行うことで、リスク管理体制を効果的に運用できます。
5-1: PDCAサイクルの活用
リスク管理では、PDCAサイクルが継続的な改善のために利用されます。PDCAサイクルは、「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Act(改善)」の4つのフェーズから構成されます。
具体的には以下のような手順でPDCAサイクルを回します。
- Plan(計画):リスク管理計画を策定します。リスクの特定、分析、評価を行い、リスク対策を計画します。計画は、リスクが発生する可能性や影響度合いを予測し、それに対して備えることが目的です。
- Do(実行):計画に基づいて、リスク対策を実施します。具体的には、リスク回避、低減、負担分散、保険などを活用します。
- Check(評価):リスク対策の効果を評価します。リスクの状況を定期的に監視し、リスク対策が有効かどうかを確認します。
- Act(改善):リスク管理計画の改善・修正を行います。リスク管理計画に不備があった場合は、再度リスクの特定、分析、評価を行い、リスク対策を改善します。
PDCAサイクルを実践することで、リスクの早期発見やリスク対策の改善が可能になるため、新規事業においても積極的に活用することが重要です。
5-2: リスクレビューとモニタリング
新規事業には、多くのリスクが伴います。そこで、リスクレビューとモニタリングを行い、リスク管理を強化しましょう。リスクレビューでは、新規事業に関わるリスクを洗い出し、評価します。リスクの発生確率や影響度を評価し、含有リスクを把握することで、リスクに対する対応策を策定することができます。リスクレビューでは、ヒアリングや現地調査を行うことで、リスクを可能な限り正確に把握することが重要です。
また、モニタリングでは、リスク対策の効果を定期的に評価し、必要に応じて改善・修正を行います。新規事業では、事業内容の変化や環境変化によって新たなリスクが発生する可能性があるため、モニタリングを継続的に行うことが重要です。モニタリングでは、リスクマトリクスを作成し、リスクの状況を可視化することで、リスク管理の進捗状況を把握しやすくすることができます。
これらの取り組みにより、組織が持続的にリスク管理を行い、新規事業のリスクを適切にコントロールすることができます。
まとめ
新規事業におけるリスク管理は、事業の成功に大きく寄与します。リスク特定、評価、対策立案、コミュニケーション、継続的改善を実施することで、新規事業のリスクを最小限に抑え、事業の成長を促進できます。このコラムでは、リスク管理の基本的な概念や手法を
解説しましたが、各企業の事業環境やリスク要因は異なります。実際にリスク管理を実施する際には、自社の事業に適した方法を選択し、柔軟に対応することが重要です。
今回紹介したリスク管理の手法を参考に、新規事業に取り組む際のリスクを適切にコントロールし、事業の成功に向けた土台を築いていきましょう。リスク管理を継続的に実施することで、新規事業の安定的な展開や成長につながるでしょう。
尚、弊社では新規事業のコンサルティング支援サービスを行っております。新規事業に関してお困りの事があれば、お気軽にご連絡ください。