目次
「とりあえずブレストしましょう」が生む、何も生まない会議
「では、とりあえずブレインストーミングで考えてみますか」
この言葉を聞いて、あなたはワクワクしますか?それとも、ネガティブな気持ちになりますか?
昨今では多くの企業で、アイデア出しといえばブレインストーミングが定番になっています。ホワイトボードに大量の付箋を貼り、「批判禁止」「質より量」のルールを守りながら、延々とアイデアを出し続ける。確かに、それらの作業を真面目にやっている企業は多いのですが、結果はどうでしょうか?
会議が終わると、ホワイトボードには確かに大量の付箋が貼られています。しかし、その多くは似たようなアイデアばかり。そして結局、「現実的に考えて」という言葉とともに、無難なアイデアに収束していく。数週間後、あのホワイトボードに貼られた付箋のその他のアイデアについては、誰も覚えていません。
実は、真に革新的なアイデアは、最初は「おかしい」と思われるものばかりなのです。
「他人の家に泊まる?そんなの危険だよ」「DVDを郵送?壊れるし遅くない?」「家具を自分で組み立てる?面倒でやりたくないよ」。これらはすべて、最初は「クレイジーなアイデア」として否定されました。しかし今では、Airbnb、Netflix、IKEAという巨大企業を生み出しています。
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そもそも、ブレインストーミングとは何か?その限界とは?
ブレインストーミングについて、まずは正しく理解しておきましょう。
この手法は、1953年にアレックス・オズボーンによって提唱された集団発想法です。4つの基本ルールがあります。
- 他人のアイデアを批判しない
- 突拍子もないアイデアを歓迎する
- できるだけ多くアイデア出す(質より量)
- 他人のアイデアを発展させる。
1953年から約70年間、この手法は創造性開発のスタンダードとして、世界中の企業で採用されてきました。多くのビジネス書がブレストを推奨し、多くの研修プログラムがブレストを教えています。
しかし、ここに不都合な真実があります。
研究が示すところによれば、ブレインストーミングは個人で考えるよりも、アイデアの質・量ともに劣るというデータがあるのです。なぜこのような結果になるのでしょうか。
まず、「社会的手抜き」の問題があります。集団で考えると、誰かが考えるだろうという心理が働き、一人ひとりの努力が低下します。
次に、生産性の問題もあります。他人が話している間は自分のアイデアを考えられず、思考が中断されます。
さらに、「評価懸念」の問題もあります。批判禁止のルールがあっても、実際には他人の目が気になり、クレイジーなアイデアを言いづらいのです。
そして最も大きな問題は、声の大きい人、立場が上の人の意見に引っ張られるということです。結局、「それっぽいアイデア」の周辺に、似たようなアイデアが集まってしまいます。
従来の発想法が抱える最大の問題
ブレインストーミングに限らず、従来の発想法には共通する問題があります。
それは、暗黙のゴールが「実現可能で、リスクが低く、説得しやすいアイデア」になってしまっているということです。参加者は無意識のうちに、「これは上司が承認してくれるか」「これは予算内で実現できるか」「これは前例があるか」といったフィルターをかけながら考えてしまいます。
その結果、出てくるアイデアは既存の延長線上のものばかりになります。これでは破壊的なイノベーションは生まれません。競合も同じことを考えているからです。
実は、本当に革新的なアイデアは、最初は必ず「それは無理でしょ」と言われるものなのです。
「クレイジーなアイデア」が世界を変えた、5つの事例
理論だけでは分かりにくいので、実際に「クレイジーなアイデア」から成功した企業の事例を見ていきましょう。
Airbnb「シリアルで資金調達する」
2008年、Airbnbは倒産寸前でした。
創業者たちは「自宅の空き部屋を旅行者に貸し出すプラットフォーム」というアイデアを持って、投資家を回っていました。しかし、返ってくる答えは全て同じでした。「誰が他人の家に泊まるんだ?」「危険すぎる」「市場規模が小さすぎる」。
資金は底をつき、クレジットカードの負債は増え続けていました。通常であれば、ここで諦めるか、ピボット(方向転換)を考えるところです。
しかし、創業者たちは全く違うことを考えました。
「オバマとマケインのシリアルを作って売ろう」
2008年は大統領選の年でした。彼らは、オバマとマケインの顔が入ったシリアルボックス「Obama O’s」と「Cap’n McCain’s」を製作しました。IT企業が突然、シリアルメーカーになったのです。
1箱40ドルで販売したこのシリアルは、ニュース性もあって話題になり、3万ドルを調達することに成功しました。この「クレイジーな行動」は、後にY Combinatorの創業者ポール・グレアムの目に留まります。「シリアルを売って会社を存続させる創業者たちなら、投資する価値がある」と。
この出来事がきっかけで、Airbnbは本格的な資金調達に成功し、今では時価総額10兆円を超える企業に成長しました。
何が「おかしかった」のでしょうか。それは、「IT企業は投資家から資金を調達すべき」という常識を完全に無視したことです。普通なら、「もっと良いピッチ資料を作ろう」「別の投資家を探そう」と考えるところを、「シリアルを売ればいい」という飛躍をしたのです。
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Netflix「DVDをポストに入れる」
1990年代後半、レンタルビデオ市場はBlockbusterが支配していました。顧客は店舗に行き、ビデオを借り、期限内に返却する。もし遅れれば、高額な延滞料金を払う。これが当時の「当たり前」でした。
Netflixの創業者リード・ヘイスティングスは、自分が延滞料金で40ドル払った経験から、このビジネスモデルに疑問を持ちました。そして、思いついたのが「DVDを郵送で貸し出す」というアイデアでした。
当時、このアイデアは業界中から笑われました。「郵送なんて遅すぎる」「DVDが壊れる」「盗まれる」「誰がそんなサービスを使うんだ」。
確かに、論理的に考えれば、店舗で借りる方が早くて確実です。郵送は時間がかかり、配送事故のリスクもあります。しかしNetflixは、この制約を一旦無視しました。そして、「延滞料金ゼロ」「月額固定」というシンプルな価値提案に集中したのです。
結果として、DVD技術の登場というタイミングも完璧でした。DVDはビデオテープより軽く、薄く、壊れにくかったのです。そして顧客は、多少の配送時間よりも、延滞料金がないことに価値を感じました。
2000年、NetflixはBlockbusterに買収を提案しましたが、5,000万ドルという価格は「高すぎる」と一蹴されました。2010年、Blockbusterは破産しました。現在、Netflixの時価総額は約30兆円です。
何が「おかしかった」のでしょうか。「レンタルビデオは店舗で借りるもの」という大前提を無視したことです。配送の遅さという明白な欠点があるにも関わらず、それを補って余りある価値を提供できると信じたのです。
Red Bull「飲料会社なのにスポーツチーム運営」
エナジードリンク市場に参入したRed Bullは、限られた広告予算の中で、どう差別化するかという課題に直面していました。
通常、飲料メーカーはテレビCMを打ち、スーパーマーケットに並べ、試飲キャンペーンをします。競合のコカ・コーラやペプシも、巨額の広告予算でこの戦いをしています。
しかしRed Bullは、全く違う選択をしました。
F1チーム、サッカークラブ、エクストリームスポーツイベントを運営し始めたのです。飲料メーカーが、スポーツチームのオーナーになる。これは当時、誰も考えなかった戦略でした。
「広告費を使うのではなく、スポーツチームに投資する」「製品を売るのではなく、ライフスタイルを売る」「メディアに広告を出すのではなく、自らがメディアになる」。
Red Bull Racingは実際にF1で優勝を重ね、Red Bull Stratos(成層圏からのスカイダイビング)は世界中で話題になりました。気づけば、Red Bullは単なるエナジードリンクではなく、「限界に挑戦する」というライフスタイルを象徴するブランドになっていました。
何が「おかしかった」のでしょうか。「飲料会社は広告を打つべき」という常識を無視したことです。広告予算をスポーツチームに投資するという、業界の文脈を完全に転用したのです。
パタゴニア「買わないでキャンペーン」
アパレル業界にとって、ブラックフライデーは1年で最も重要な商戦です。各社が大規模なセールを展開し、売上を最大化します。これは業界の常識です。
2011年のブラックフライデー、パタゴニアはニューヨーク・タイムズに全面広告を出しました。そこに書かれていたのは、「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」という衝撃的なメッセージでした。
売上を増やすべき日に、買わないでと訴える。アパレル企業が消費を否定する。これは、ビジネスの常識を真っ向から否定する行動でした。
広告では、1着のジャケットを作るのに必要な水の量、排出されるCO2、環境への負荷を詳細に説明し、「本当に必要なものだけを買ってほしい」と訴えました。
この逆説的なメッセージは、強烈な印象を残しました。多くのメディアが取り上げ、SNSで拡散され、パタゴニアのブランド価値は飛躍的に向上しました。そして皮肉なことに、このキャンペーン後、売上は増加したのです。
なぜなら、顧客は「本当に環境を考えている企業」だと信頼し、より高いロイヤルティを持つようになったからです。安易に買って捨てるのではなく、長く大切に使う。その価値観に共感する顧客が集まったのです。
何が「おかしかった」のでしょうか。「企業は売上を最大化すべき」という大前提を逆転させたことです。短期的な売上より、長期的なブランド価値を選んだのです。
IKEA「顧客に組み立てさせる」
家具業界では長年、「完成品を顧客に届ける」ことが当たり前でした。顧客は「楽」を求めている。だから、企業が組み立てて、完成品を配送する。配送コストも在庫コストも高いですが、それが顧客サービスだと考えられていました。
IKEAの創業者イングヴァル・カンプラードは、この常識を疑いました。
「顧客に組み立てさせれば、安くできる」
本来は企業がやるべき作業を、顧客に委ねる。これは明らかに「手抜き」に見えます。「組み立てが面倒」「時間がかかる」「失敗するかもしれない」。顧客にとってのデメリットは明白です。
しかしIKEAは、このデメリットを補って余りある価値を作り出しました。
まず、フラットパック(平たい箱)にすることで、配送コストと在庫コストを劇的に削減しました。その分、価格を大幅に下げることができました。次に、組み立て説明書を言語に依存しない絵だけのデザインにすることで、世界中で使えるようにしました。
そして最も重要なのは、「自分で組み立てた」という達成感が、付加価値になったことです。心理学では「IKEA効果」と呼ばれる現象があります。人は、自分が作ったものに対して、より高い価値を感じるのです。
何が「おかしかった」のでしょうか。「サービス=楽させる」という前提を逆転させたことです。不便さを、価値に変えたのです。
結論:「クレイジーなアイデア」は3つのパターンに分類できる
ここまで5つの事例を見てきましたが、「クレイジーなアイデア」は、3つのパターンに整理できます。
① 前提逆転型
これは、業界の大前提や「〜すべき」を逆転させるパターンです。最も分かりやすく、説明しやすいのが特徴です。
具体例を見てみましょう。
IKEAは「家具は完成品を届けるべき」を「顧客に組み立てさせる」に逆転させました。パタゴニアは「企業は売るべき」を「買わないで」に逆転させました。無印良品は「商品は広告すべき」を「広告しない」に逆転させました。
このパターンを見つける方法は、まず業界の「〜すべき」をリストアップすることです。「顧客には楽をさせるべき」「売上は増やすべき」「広告は打つべき」といった暗黙のルールを書き出します。
次に、それぞれを逆転させます。「顧客に面倒をかける」「売上を減らす」「広告を打たない」。一見、ビジネスとして成立しないように見えます。
しかし、ここで重要なのは「なぜそれでも成立するか?」を本気で考えることです。IKEAであれば、「価格を下げる」「達成感を提供する」という価値で成立させました。パタゴニアは、「ブランド信頼性を高める」「ロイヤルティを獲得する」という価値で成立させたのです。
② 制約無視型
これは、技術的・物理的・経済的な制約を一旦無視するパターンです。最も大胆で、実現が難しいのが特徴ですが、成功すれば技術革新やビジネスモデル革新を生みます。
Netflixは「郵送は遅い」「DVDは壊れる」という制約を無視しました。Teslaは「EVは遅い、高い、不便」という制約を無視しました。SpaceXは「ロケットは使い捨て」という常識を無視しました。
これらの企業は、「できない理由」を一旦脇に置いて、「もしできたら、どうなるか?」を想像したのです。
このパターンを見つける方法は、まず「できない理由」をすべて書き出すことです。「技術的に不可能」「コストが高すぎる」「時間がかかりすぎる」といった制約をリストアップします。
次に、それらが存在しないと仮定します。制約がなければ、何ができるでしょうか?どんな価値を提供できるでしょうか?
そして最後に、実現するための別の方法を探します。Netflixであれば、DVD技術の登場がブレークスルーになりました。Teslaは、バッテリー技術の進化を待ちました。制約を無視することと、実現を諦めることは違います。別の道を探すのです。
③ 文脈転用型
これは、全く別の業界や文脈のやり方を、自社の業界に持ち込むパターンです。意外性が高く、差別化しやすいのが特徴です。
Red Bullは、飲料会社がメディア企業のように振る舞いました。Airbnbは、IT企業が食品メーカーのように行動しました(シリアル販売)。Uberは、配車サービスをマッチングプラットフォームにしました。
これらは、異業種の成功パターンを借りてきて、自社の業界に適用した結果です。
このパターンを見つける方法は、まず全く別の業界の成功事例を集めることです。「あの業界では、こんなやり方で成功している」という情報を収集します。
次に、その本質的な構造を抽出します。Red Bullの例で言えば、「メディア企業はコンテンツを作り、広告収入を得る」という構造です。
そして最後に、それを自社の業界に当てはめます。「飲料会社がコンテンツ(スポーツイベント)を作り、ブランド価値を高める」という形で転用したのです。
「クレイジーなアイデア」を生み出す5つのステップ
理論と事例を理解したところで、実際にどうやって「クレイジーなアイデア」を生み出すのか、具体的なステップを説明していきます。あくまで一案ですが、参考にしてみてください。
STEP1: 前提を可視化する
この最初のステップが、最も重要なステップです。
前提が見えなければ、それを疑うこともできません。多くの企業は、自分たちが従っている前提に気づいていないのです。「これは当たり前だから」と思っていることこそ、疑うべき対象なのです。
具体的には、以下の問いを投げかけてみてください。
- この業界で絶対に守らなければならないルールは何か?
- 「それはできない」と言われることは何か?
- 競合が全社やっていることは何か?
- 顧客が期待していることは何か?
- 創業時から変わっていないことは何か?
例えば、レンタルビデオ業界であれば、「店舗で借りる」「期限内に返す」「延滞料金がある」といった前提があります。家具業界であれば、「完成品を届ける」「配送費は企業負担」「組み立ては企業がやる」といった前提です。
これらを書き出す作業は、一見簡単そうに見えて、実は極めて難しいのです。なぜなら、前提とは「当たり前すぎて、意識されないもの」だからです。
おすすめの方法は、業界外の人に聞くことです。「なぜこの業界では、こういうやり方をしているのですか?」と質問してもらうのです。業界の人間にとっては当たり前すぎて気づかないことが、外部の人には不思議に見えることがあります。
前提の可視化が不十分だと、結局従来の延長線上のアイデアしか出ません。ここに時間をかけることが重要です。
STEP2: 意図的に「逆」を考える
前提が見えたら、それを意図的に逆転させてみましょう。これは、固定観念から強制的に解放されるための技術です。
「どうすれば売上を上げられるか?」ではなく、「どうすれば売上を下げられるか?」と考えます。一見、馬鹿げているように聞こえますが、この逆転思考は極めて有効です。
なぜなら、売上を下げる方法を考えると、実は顧客が求めていない機能や、不必要なサービスが見えてくるからです。「過剰な機能追加」「複雑な料金体系」「しつこい営業」。これらを排除すれば、顧客満足度が上がる可能性があります。
同様に、「顧客満足度を上げるには?」ではなく、「顧客を不満にするには?」と考えます。すると、本当に重要な要素が浮き彫りになります。「待たせる」「説明が不十分」「問い合わせに答えない」。これらの逆が、顧客満足度向上のポイントなのです。
「コストを削減するには?」ではなく、「コストを10倍にするには?」と考えることもできます。すると、どこに価値があるのかが見えてきます。高級ブランドがコストをかける部分は、実は価値を生む部分なのです。
「もっと便利にするには?」ではなく、「もっと不便にするには?」と考えることもできます。IKEAは、この問いから「顧客に組み立てさせる」という答えを見つけました。不便が、価値になることもあるのです。
なぜ逆の問いが有効なのでしょうか?それは、通常とは異なる脳の領域が活性化されるからです。私たちの脳は、同じパターンで考え続けると、同じ答えしか出せなくなります。逆転思考は、その固定化を強制的に解除するのです。
STEP3: 実現可能性を後回しにする
ここが最も難しいポイントです。
多くの企業で、せっかく面白いアイデアが出ても、すぐに「それは無理です」と却下されます。「予算が」「技術的に」「時間が」「上司が承認しない」。こうした制約が、クレイジーなアイデアを殺してしまうのです。
この段階では、実現可能性を一旦無視してください。
- 「それは無理です」と即座に却下する。
- 「予算が」「技術的に」「時間が」と制約を持ち出す。
- 「現実的に考えて」と議論を収束させる。
- 「上司が承認しない」「顧客が受け入れない」ととにかく出来ない理由を出す。
これらは全て、後で考えるべきことです。今は考えてはいけません。
代わりに、やるべきことは以下です。
どんなに馬鹿げていても、まず面白がる。「もしできたら、どうなるか?」を想像する。「なぜそれが面白いのか?」を言語化する。制約は後で考える(今は考えない)。
ここで、ブレインストーミングとの決定的な違いが生まれます。ブレストは「たくさん出せば良い」が目的です。結果として、現実的なアイデアばかりが積み上がります。
一方、クレイジーなアイデアを考えるアプローチは、「1つでいいから、ぶっ飛んだものを」が目的です。量ではなく、飛躍の大きさが重要なのです。
Airbnbの創業者が「シリアルを売ろう」と言ったとき、もし誰かが「IT企業がシリアルを売るなんて無理です」と言っていたら、あの成功はありませんでした。Netflixの創業者が「DVDを郵送しよう」と言ったとき、もし「配送は遅すぎる」と却下されていたら、今のNetflixは存在しません。
実現可能性は、後で考えればいいのです。まずは、飛躍しましょう。
STEP4: 「なぜそれでも成立するか?」を本気で考える
クレイジーなアイデアを選んだら、次はそれを実現する方法を本気で考えます。ここからが、本当の勝負です。
逆算思考のプロセスは、以下の通りです。
まず、クレイジーなアイデアを1つ選びます。複数ではなく、1つに絞ります。
次に、それが成立するための条件をリストアップします。何があれば、このクレイジーなアイデアは実現するのか?そして、その条件を作り出す方法を考えます。
最後に、最小限の実験方法を設計し、実際にやってみます(PoC)。
具体例として、IKEAの場合を見てみましょう。
クレイジーなアイデアは「顧客に組み立てさせる」です。これが成立するための条件は何でしょうか?
まず、組み立てが簡単である必要があります。複雑すぎたら、顧客は諦めてしまいます。次に、価格が圧倒的に安い必要があります。組み立ての手間を補う価値がなければいけません。そして、組み立てに価値を感じる文化が必要です。「面倒」ではなく「楽しい」と思ってもらう必要があります。
では、実現方法はどうでしょうか?
説明書を絵だけにすることで、言語の壁をなくしました。フラットパック設計により、配送コストを削減しました。北欧デザインのブランディングにより、DIYの美学を演出しました。店舗体験を最大化し、楽しい買い物体験を作りました。
このように、クレイジーなアイデアから逆算して、実現方法を具体化していくのです。
重要なポイントは、最初から完璧を目指さないことです。「どうすれば一部だけでも実現できるか?」を考えましょう。
Netflixも最初から完璧ではありませんでした。郵送は確かに遅かったのです。でも、延滞料金ゼロという価値が、その遅さを補いました。そして、技術の進化とともに、配送速度も改善されていきました。
STEP5: 小さく、早く実験する(PoC)
いきなり大規模に検証するのは危険です。クレイジーなアイデアの多くは失敗するからです。しかし、その中の1つが大きな成功を生みます。だから、小さく、早く、たくさん実験するのです。Quick&Dirtyの考え方が重要になります。
実験の設計には、いくつかのポイントがあります。
まず、できるだけ小さくすることです。リスクを最小化します。全社でやるのではなく、1つの支店で、1つの商品で、限定的に始めます。
次に、できるだけ早くすることです。学習速度を最大化します。1年かけて完璧な準備をするより、1ヶ月で荒削りなものを試す方が、学びが多いのです。
そして、できるだけ安くすることです。失敗を許容します。巨額の投資をすると、失敗したときのダメージが大きすぎます。安く始めれば、失敗してもやり直せます。
最後に、フィードバックを集める仕組みを作ることです。実験の結果から学ばなければ、意味がありません。実験のサイクルを回しましょう。
仮説を立てる。最小限の実験を設計する。実行する。結果を観察する。学びを抽出する。次の実験へ。
このサイクルを高速で回すことで、クレイジーなアイデアが現実のものになっていきます。
Airbnbも、最初は創業者たちの自宅から始めました。「本当に他人が来るのか?」を実験したのです。来ました。そして、「お金を払ってくれるのか?」を実験しました。払ってくれました。小さな成功を積み重ねて、今の姿になったのです。失敗前提で進めることが重要です。
「クレイジーなアイデア」が失敗する4つのパターン
ここまで成功の方法を説明してきましたが、失敗パターンも理解しておくことが極めて重要です。同じ失敗を繰り返さないために、典型的な失敗パターンを見ていきましょう。
失敗パターン① 単に「奇抜」なだけで終わる
クレイジーなアイデアと、単なる奇抜なアイデアは違います。
奇抜なアイデアは、面白いが価値がありません。話題性だけで、持続しません。顧客の問題を解決していないのです。バズったが、売上につながらない。こうした事例は数多くあります。
炎上マーケティングで一時的に注目を集めても、ブランドイメージを毀損し、長期的には失敗するケースがあります。「おかしい」が「変」になってしまうのです。
対策は、必ず「なぜこれが顧客にとって価値なのか?」を問い続けることです。
IKEAの「組み立てさせる」は、奇抜ではなく、価値があります。なぜなら、価格を下げ、達成感を提供するからです。パタゴニアの「買わないで」は、奇抜ではなく、価値があります。なぜなら、ブランドの信念を明確に伝え、ロイヤルティを高めるからです。
おかしさの先に、本質的な価値がなければ意味がありません。「面白い」だけでは不十分なのです。
失敗パターン② 組織が受け入れない
素晴らしいアイデアも、組織が受け入れなければ実現しません。
「そんなの無理」と一蹴される。リスクを取れない文化がある。前例主義に阻まれる。稟議が通らない。こうした壁に阻まれて、クレイジーなアイデアは消えていきます。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。組織は基本的に、既存の成功パターンを繰り返そうとするからです。過去に上手くいった方法を、再現しようとします。クレイジーなアイデアは、その逆を行くため、拒絶反応が起きるのです。
対策はいくつかあります。
まず、トップのコミットメントを得ることです。経営層を巻き込みましょう。トップが「やってみよう」と言えば、組織は動きます。
次に、小さく実験することです。大きな予算を使わなければ、承認のハードルは下がります。「とりあえず1ヶ月、10万円でやってみる」なら、許可が出やすいでしょう。
データで示すことも有効です。感覚ではなく、事実で説得します。「顧客の60%が、この問題に不満を持っています」というデータがあれば、説得力が増します。
成功事例を持ち込むことも効果的です。「Netflixも最初はクレイジーなアイデアでした」という事例があれば、「もしかしたら上手くいくかも」と思ってもらえます。
失敗パターン③ 実行フェーズで妥協する
おクレイジーなアイデアが承認されても、実行フェーズで骨抜きになることがあります。
「現実的に考えて」と妥協する。予算・リソースの制約で諦める。結局、従来の延長線上に落ち着く。「おかしさ」が消えて、普通のアイデアになる。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか?それは、実行フェーズでは、様々な制約が現実味を帯びてくるからです。「本当に大丈夫だろうか」という不安が、妥協を生むのです。
しかし、ここで重要なのは、コアとなる「おかしさ」は絶対に譲らないことです。
妥協するなら、周辺部分だけにしましょう。本質を失ったら、やる意味がありません。普通のアイデアなら、競合も思いつきます。差別化できないのです。
パタゴニアが「買わないで」を「もっと考えて買おう」に変えていたら、あの衝撃はありませんでした。IKEAが「少しだけ組み立てさせる」に妥協していたら、コスト削減効果は限定的だったでしょう。
クレイジーなアイデアの価値は、その「おかしさ」にあります。それを失ったら、ただのアイデアです。
失敗パターン④ 市場が理解しない
クレイジーなアイデアは、市場に理解されないことがあります。
早すぎて、市場が追いついていない。説明が難しく、価値が伝わらない。顧客教育にコストがかかりすぎる。「変なサービス」で終わる。
Airbnbも最初は苦労しました。「他人の家に泊まるなんて危険」「ホテルでいい」「なぜそんなサービスが必要なのか分からない」。市場が理解するまでに、時間がかかったのです。
対策はいくつかあります。
まず、ストーリーテリングで伝えることです。理屈ではなく、物語で伝えます。「私は延滞料金で40ドル払いました。これは不公平だと思いませんか?」というストーリーの方が、「月額固定料金のサブスクリプションモデル」という説明より伝わります。
インフルエンサーを巻き込むことも有効です。信頼できる人から広めてもらいます。Airbnbは、デザイナーやクリエイターといった、新しいものに敏感な層から広めていきました。
小さな成功体験を積み重ねることも重要です。徐々に理解を広げていくのです。最初は10人、次は100人、そして1000人と、段階的に広げていきます。
タイミングを見極めることも必要です。市場の準備ができているか?技術は整っているか?社会の空気感は合っているか?これらを見極めることが、成功と失敗を分けます。
「クレイジーなアイデア」を避けるべきケース
クレイジーなアイデアは強力ですが、万能ではありません。以下のようなケースでは、慎重に検討するか、別のアプローチを選ぶべきです。
規制の厳しい業界
金融、医療、化粧品、食品など、規制の厳しい業界では、クレイジーなアイデアがコンプライアンス違反になるリスクがあります。
薬機法、金融商品取引法、食品衛生法など、様々な規制が存在します。これらに違反すれば、事業停止や罰金といった重いペナルティが待っています。
この場合は、規制の範囲内で、できる限り「おかしく」考えるという調整が必要です。完全に自由ではありませんが、規制の中にも工夫の余地はあります。
安全性が最優先される領域
航空、医療機器、建設など、安全性が最優先される領域では、「クレイジーなアイデア」が事故につながる可能性があります。
人命に関わる領域では、実績のある方法を踏襲することが重要です。革新は必要ですが、安全性を犠牲にしてはいけません。
この場合は、安全性を担保した上で、他の部分(サービス、体験など)で「おかしさ」を追求するべきです。飛行機の安全システムは保守的に、しかし予約システムや機内サービスは革新的に、といった形です。
既存顧客ベースが大きく、離反リスクが高い
既に大きな既存顧客ベースを持っている場合、急激な変化は既存顧客の離反を招くリスクがあります。
新規顧客を獲得するために、既存顧客を失うのは本末転倒です。特に、既存顧客からの収益が大きい場合、このリスクは無視できません。
この場合は、段階的なアプローチや、別ブランドでの実験を検討すべきです。既存ブランドは守りながら、新ブランドで攻めるという戦略です。
短期的な成果が求められる状況
クレイジーなアイデアは、市場教育に時間がかかることが多く、短期的な成果を出しにくい傾向があります。四半期ごとの数字を求められる上場企業では、リスクが高すぎるかもしれません。株主への説明も難しいでしょう。
この場合は、まず短期的な成果を出せる施策を実行し、並行して長期的なクレイジーなアイデアを育てるという方法があります。
なぜ日本企業は「クレイジーなアイデア」が苦手なのか
ここまで読んで、「確かに効果的だが、うちの会社では実行が難しそうだ」と感じた方も多いのではないでしょうか。特に日本企業において、クレイジーなアイデアの実行は容易ではありません。
文化的背景
日本は「空気を読む」文化があります。「クレイジーなこと」を提案すること自体が、空気を読めていないと捉えられがちです。
もしNetflixが日本の会社だとしたとき、とある会議で「DVDを郵送すればいいんじゃないですか?」と言ったら、どうなるでしょうか。一瞬の沈黙の後、「現実的に考えましょう」と言われそうです。クレイジーなアイデアを口にすることが、勇気の要る行為なのです。
また、「出る杭は打たれる」という言葉が示すように、集団から外れることへの抵抗が強い文化があります。クレイジーなアイデアは、まさに「出る杭」です。みんなと同じことを考えていれば安全ですが、違うことを言えば批判されるリスクがあります。
業界内の既存プレイヤーへの配慮も働きます。「業界の常識を否定する」ことは、先輩企業への不敬と受け取られる可能性があります。特に、日本では企業間の関係性が重視されるため、このハードルは高いのです。
組織的背景
日本企業の意思決定プロセスも、クレイジーなアイデアの実行を難しくしています。
稟議制度による過度な調整プロセスでは、クレイジーなアイデアは必ず誰かに止められます。10人の承認が必要な場合、10人全員が「これはいける」と思わなければ通りません。しかし、クレイジーなアイデアは、最初は誰も「いける」とは思わないのです。
全員の合意を取ろうとすると、結局、無難なアイデアに落ち着きます。「これなら反対されないだろう」という基準で選ばれたアイデアが、革新的であるはずがありません。
失敗を許容しない文化も大きな問題です。クレイジーなアイデアの多くは失敗します。しかし、その1つの成功が大きなリターンを生むのです。日本企業では、失敗したときの責任追及が厳しく、挑戦へのインセンティブが働きにくいのです。
前例主義も大きな障壁です。「前例がない」ことが、挑戦しない理由になってしまいます。しかし、イノベーションとは、定義上、前例がないものです。前例を求めること自体が、イノベーションを阻害しているのです。
教育的背景
日本の教育システムも、クレイジーなアイデアを生み出しにくい環境を作っています。
日本の教育は「正解を探す」ことに重点が置かれています。テストには必ず正解があり、それを早く正確に見つけることが評価されます。しかし、クレイジーなアイデアに「正解」はありません。誰も正解を知らないからこそ、試す価値があるのです。
論理的思考の重視も、時には足かせになります。論理的思考は重要ですが、クレイジーなアイデアは論理の飛躍から生まれます。AからBへの論理的なステップではなく、AからZへの飛躍が必要なのです。
創造性教育の不足も、根本的な問題です。「クレイジーなことを考える」トレーニングを受けていないのです。むしろ、「常識的に考える」ことが奨励されてきました。
これらの文化的・組織的・教育的背景が重なり、日本企業は「クレイジーなアイデア」を生み出しにくい環境にあると言えます。
しかし、一方で変化の兆しも
一方で、日本でも変化の兆しが見えています。
スタートアップの台頭により、「クレイジーなアイデア」を実行する企業が増えています。メルカリ、SmartHR、ラクスルなど、従来の常識を覆すサービスが次々と生まれています。
大企業の新規事業部門でも、従来とは異なるアプローチを試す動きがあります。社内ベンチャー制度、出島戦略、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)など、様々な取り組みが始まっています。
若手世代の価値観も変化しています。終身雇用や年功序列といった従来の価値観より、挑戦や成長を重視する人が増えています。安定よりも、面白さを選ぶ人が増えているのです。
グローバル市場で戦うためには、クレイジーなアイデアのような「型破りな発想」が必要になってきています。日本企業も、この変化に適応していく必要があると私は考えます。
必ずしも欧米企業と同じレベルの過激さは必要ありませんが、「何を疑うべきか」「どこに飛躍の余地があるか」という視点を持つことは、すべての企業にとって価値があるはずです。
本記事のまとめ(ラップアップ)
ブレインストーミングは70年間、創造性開発の定番でした。しかし、研究が示すように、必ずしも効果的ではありません。多くの企業が、大量のアイデアを出しても、結局は無難なものに落ち着いてしまう現実に直面しています。
本記事で提案したのは、「クレイジーなアイデア」をあえて考えるというアプローチです。
「クレイジーなアイデア」の本質:
- 業界の常識を疑う
- 制約を一旦無視する
- 実現可能性は後回し
- でも、本質的な価値がある
これは単なる奇抜さではありません。顧客の本質的な問題を、従来とは全く異なる視点から解決するための、戦略的なアプローチなのです。
クレイジーなアイデアは「奇をてらう」ことではありません。顧客が本当に困っている問題を、誰も思いつかなかった方法で解決する。それが、おかしなアイデアの本質です。
Airbnbも、Netflixも、IKEAも、Red Bullも、パタゴニアも、最初は「クレイジーなアイデア」でした。「誰がそんなサービスを使うんだ」「それは無理だ」「ビジネスとして成立しない」。そう言われました。
でも、今では当たり前になっています。次の常識を作るのは、今日の「クレイジーなアイデア」かもしれません。
あなたの業界で「絶対に変えられない」と思っていることは何ですか? それを逆転させたら、どんな世界が見えるでしょうか? どんな「おかしなアイデア」が生まれるでしょうか?
この問いから、イノベーションは始まります。ブレインストーミングのルールを守ることより、常識を疑うことの方が、遥かに価値があるのではないでしょうか。
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